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 私の名前はあいか。


 夫である伊藤慎也は高校の同級生で、付き合って約10年で結婚、すぐに妊娠。

 付き合いが長いだけあって、お互いに良いところも悪いところも知り尽くした上での結婚だと思っていました。


 夫の仕事は建築関係。

 私は夫の『専業主婦になってほしい』という要望もあり、結婚を機に正社員として勤めていた会社を退社。すぐに妊娠も発覚したので、『結局いいタイミングだったのかも』なんて思っていたある日、真剣な顔の夫に「話がある」と。


「実は以前から希望していた海外赴任が、本格的に決まりそうなんだ!」


 夫が海外で働きたいと希望していることは、結婚前から聞いていました。


「えぇ?!あと4か月で出産なのに?!」

「急に空きが出て早ければ来月には出発になるんだよね」


 (ま・じ・か


「あいかにもおなかの子にも負担をかけたくないけどこれチャンスなんだよ!ずっとやりたかったプロジェクトなんだ!」


 夫の気持ちもわかりますが、私だって初めての妊娠で、毎日変わる自分の体調や出産後の生活への不安などでいっぱいいっぱい。

 そんな私の気持ちを、夫は私の表情からすぐに察したようです。


喜んでくれないのかよ?俺ずっと狙ってたって言ってたよな?」

「それはわかるけど私不安だよ言葉の通じないところで出産するなんて、怖いよ!」


 私は正直に自分の抱えている不安を夫にぶちまけました。


「それに新生児抱えて、周りに誰も知り合いがいない状況とか!絶対病むよ私!」


 しかし夫は『なんだそんなことか』と言わんばかりに


「そりゃそうだよな!それに俺も正直医療のレベルとか衛生面とか気になるしあいかは日本で出産、育児した方がいいと思うんだよね」


 畳みかけるように続けます。


「俺は一人でも大丈夫!今はどこでも、ネットでつながれる!だから頼む、行かせてほしい!」

「それって単身赴任するってこと?!まだ新婚なのに?!」

「だってそうするしかないだろ?!」


 夫が一度決めたらもう曲がらない性格だということは、長年の付き合いで私も重々承知していました。とはいえ、あまりにも急な話過ぎて、私もすぐには納得できず


「でもどれくらいの期間になるの?」

「予定では三年くらい。そのあとはまた次のプロジェクト次第かな」

「三年も?!その間ずっと離れて暮らすってこと?!」

「子供も産まれるしあっという間だよ!ワンオペで苦労かけるけど、三年だけだから俺のわがままを許してほしい!」


 正直、夫は家事育児が得意なタイプとは言えないし実家に里帰りだと思えば、確かに三年くらいはすぐに過ぎてしまうかも知れない。


 でも


「慎也はそれでいいの?!子供の可愛い時期を見逃すことになるしそれに行事ごとだって

「毎日ちゃんとビデオ通話とかで連絡取れるし!それに赴任する国までは飛行機でたった数時間だよ?行事や節目にはちゃんと毎回戻ってくるって!」


 夫は頻繁に日本に戻ってくると強調。

 そのあまりの熱意に


「次の赴任先には家族帯同で行けるなら良いけど


 私も覚悟を決めました。


 <海外に単身赴任>


 その事をこの時は私も軽く考えていたのです。

 私の承諾を得て夫の顔はようやくやわらぎ、ほっとしたようにつぶやきました。


「気が早いけどそうだよな、今回は俺一人だけど次は家族で行けるといいよな」


(子供に広い世界を見せてあげられるかもしれない!)


 私にだって、海外で生活することに憧れもありました。だからこそ、海外転勤を熱望する夫との結婚に至った、というのも事実なのです。


 ですがそんな私の砂糖菓子よりも甘い将来への展望は、この後粉々に打ち砕かれることになるのでした。

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小説版です。もちろん最後まで完結しているので、毎日これくらいの分量ずつ更新して行こうと思います!既読の方も未読の方も楽しんでご覧頂けるよう、色々と書き直したり書き足したりしておりますので、またお付き合い頂けると嬉しいです!
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