IMG_5496


結局娘を置いて二泊三日で夫のもとに向かうことになりました。


 機内ではトイレで搾乳。しかし慣れない自己流の搾乳ではうまくいかず、胸はカチカチに。もちろん私は痛みで眠れず、最悪のコンディションで現地空港に到着しました。


 出口付近で待っているはずの夫の姿を探しますが


(いない!)


 夫が取ってくれたチケットはLCCだったので、持ち込み荷物にも制限があるというのにあれもこれもとお土産やら日用品やらを頼まれていたので、かなりの大荷物。

 移動するだけでも大変な状態だったのです。


(娘を連れてこなくて本当に良かった!)


 現地語が飛び交う到着ロビーで、心の底からそう思いました。


 借りてきたWi-fiをつなげて何度も何度も連絡をしましたが、一向に既読にならず、言葉の通じない空港でずっと待ちぼうけの私


 そこからゆうに三時間が経過した頃ようやく、


「ごめーん、もう着いてたんだ?」


 こっちは飛行機遅れるのよくあることだからさ!はっはっはっ!と笑いながら夫登場。


「何回も連絡したのに!一人でどれだけ心細かったかわかる?!」


「ごめんごめん、でもそれ、俺がこっちに来て感じてることだから。あいかにも伝わった?!」


 はっとしました。

 

(そうだ、夫はこんな状態で私たちのために仕事頑張ってくれてたんだ!)




 なんて思うわけがなく。

 

(だからと言ってわざと?三時間も遅れてきて謝罪の一言もなし?!)


 カチンときていましたが、慢性的な寝不足と飛行機での移動疲れもあって、争いたくなかった私は


「そうだよねごめん


 今考えると悪手でしかありませんが、自分から謝ってしまいました。夫はそんな私の言葉に満足したのか


「わかった?だったらいいよ。ほら、俺の荷物持ってきてくれた?」


 と手を差し出してきます。


「持ってきたよー超重かった!ネットスーパーのやつとか開けちゃダメっていうから段ボールのままだよー」

「ヨシヨシ。俺の言う事ちゃんときいてくれたわけね。じゃあいこっか。」


 うんうんと頷き、私から荷物をさっと奪うとそのままスタスタと歩き出しました。

 慌ててあとを追いかけ、夫が運転する車でマンションへ。


「意外ときれいにしてるじゃない!」

「散らかすだけの荷物がないんだよ」


 それなりに広い1Bedroom(っていうらしい)。

 リビング+ダイニングと寝室の1LDKのような部屋でした。白を基調にした部屋は、私が思う外国の部屋そのものです。久しぶりに夫の生活する匂いのようなものを感じて、少し安心したのを覚えています。


「で?どうする?まずはこの辺まわってみる?」

ごめん、飛行機でも胸が張って痛くて眠れなかったし、日本でもまだ娘が全然寝かせてくれなくて疲れてるんだちょっと横になってもいい?」


「は?」


ニコニコしていた夫の顔が一瞬にして歪みました。


「そんなこと言うなよーあいかに色々見せようと思ってコース考えてたのにー」


「その気持ちはうれしいんだけど体調が万全じゃないと意味ないしそれにここに来たのは銀行とVISAの書類のためで、観光目的ってわけでもないからそれはまた今度来た時ゆっくりでも


「は?(二回目)」


 みるみる険しくなっていく夫の顔に恐怖を感じた私は



「わかったよじゃあ行こ」



 と返事をしたのですが、夫は無言でそこにあった私のスーツケースを


ドガっ!


 と蹴ると、一人で出ていってしまいました。



 交際時、あんなに優しくて私に一途だった彼。いつもデートでは車道側を歩いて車の扉だっていつも彼が開けてくれて。そんな素敵な彼と結婚して、妊娠して私は幸せいっぱいだったはず


(どうしちゃったの?!)


 一人残された私は、夫に蹴られて壁際にまで転がっていったスーツケースをぼんやり眺めながら、気付いた時には涙が止まらなくなっていました。




▼目次▼

1/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/16/17/18/19/20


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※毎日19時ごろ投稿して行きます

アルファポリスでも投稿しています↓


シナリオ版はこちらから↓