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「俺の気持ちわかってくれた?じゃあこれからいいところに連れて行ってあげる!」


 そういって少しご機嫌になった夫に連れていかれたのは、地元の人たちでにぎわうレストランでした。


「ここ、ガイドブックには載ってない超穴場なんだよ!やっぱさー観光客向けのところは値段も高いし、味もなんていうの?外国人向けにしたいんだろうけど正直そこまでレベル高くないっていうか、地元民と同じものを食べて美味しいって思える感性を俺は大事にしたいわけ。あいかわかる?俺のこういう姿勢って割と特別みたいで本社でもさ


 別に聞いてもいないことをぺらぺらと喋りだす夫。


 正直会話の内容に全く興味を持てませんでしたが、とにかく機嫌を損ねたくない一心で、私は「へーそうなんだ」「すごいねー」を繰り返すロボットのようになっていました。


「俺のおすすめでいい?」


「うん、わかんないし任せるよ」


 そして運ばれてきたのは見事に香辛料たっぷりの油でギトギトな胃に重そうなメニューばかり


(私の体調に考慮するとかは一切無いんだ


「うまそ!これマジおすすめだから!」


(ただでさえ疲れてるって言ってるのにこんな重い飯食えるか!)


 ゲンナリしつつも、文句を言ったらきっとまた機嫌が悪くなるに違いありません。

 私はできるだけ油を避けて、付け合わせの野菜などを選んで口にしました。


「ほんとだー!美味しいね!(野菜が)」


「あんま進んでなくない?何?おなかすいてなかった?」


「うん、機内でも食べたし私は大丈夫だからいっぱい食べて!」


「は?!一人でこの量無理だって!あいかってもっと食べてたでしょ?好きそうなもの選んでやったんだけど」


「今はまだちょっとそこまでおなかすいてないだけで、私好みの味だよー!さすが慎也だね!」


ふーん、まあ気に入ったなら良かったよ」


 あまり盛り上がらない食事が終わり、夜景がきれいだという名所までドライブ。もちろん私が行きたいとねだったわけではなく、夫のいう『計画』の一環だったわけですが。


 車内では娘の近況を話したり、夫の仕事の話を聞いたりと、なんやかんやで仲良く過ごせていました。


「どう?この景色これをあいかに見せたかったんだ!俺はね、この風景にずっと残るようなものを造りたいんだよ!」


 夜景をバックに熱く夢を語る夫


 私はそんな夫をうっとりと見つめる


 訳などなく!


 私の持つ千の仮面の中から<異国で照れながらも夢を語っちゃってる男性を『子供みたいに純粋な人なのね!』と微笑ましく思っている女性>の仮面を被り、なんとか夫の理想の空気を壊さないように努めていたのです。


(なぜなら早く帰って寝たいから!)


 一人悦に入ってる夫はそんな私の心中など、全く気にしていなかったようですけどね。


 そしてそんな地獄のような夜景スポットからようやく帰宅できたものの当然のように夫からは夫婦生活を求められました。

 

(疲れてるって言ってるのに!)


 早く寝たい一心で必死に演技をしてごまかす私。演技をしながらいわゆる【見知らぬ、天井】を見上げて、


(私、こんなところで何やってるんだろう?)


 夫と久しぶりに触れ合う喜びよりも、夫と分かり合えなかった虚しさが、私の胸の中にどんどん溜まっていきます。


終わったらさっさと一人で寝てしまった夫を横目に、


(最後に電話してからもう何時間たっただろう娘は泣いてないかな?いや絶対泣いてるだろうな!ごめんごめんね!)


またカチカチに張ってきた胸の痛みと罪悪感を抱えながら、その日は眠りにつきました。

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