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一瞬、何を言われたのか理解できませんでした。


(夫は私と結婚しているよね?一緒に婚姻届も出しに行ったよね?え?!何?!どう言う事?!?!)


 パニックになりつつも、


『私たち夫婦は今でも離婚はしていないですし夫が彼女と結婚できるとは思わないんですけど


 絞り出すようにしてそう答えました。


『ですよね?!私もそう思うんですけど、あまりにも堂々としていらっしゃって


他の社員さんもなんか普通に受け入れてて


私がおかしいのかなって中村に聞いてみたんですけど


『いや、それは恵理子さんはおかしくないです!絶対おかしいのはうちの夫の方ですよ!』


中村が言うには、彼は特別だからあまり詮索しない方がいいって言うんです。


何が特別なの?って聞いたら、どうも伊藤さんのお父様がうちの社長の恩人らしくて


『そうなんですか義父が


 驚きつつも、私はなんとなくこれまで欠けていたピースが一つづつ嵌っていくような感覚に囚われていました。


  就活必死になっていなかったのは〜♪コネがあったから〜♪


  急に希望通りの海外に転属できたのは〜♪コネがあったから〜♪


  私が会社に電話するって言っても余裕だったのは〜♪


  きっともう口裏合わせ済みだったから〜♪

 

 頭の中で、これまでの夫の不可解な言動が、ミュージカルのように上演されます。


『こんな事を言って却ってあいかさんを悩ませる結果になるかもしれないから


お話しするか迷ったんですけどなんか変だなって


『ありがとうございます。お話し聞けて良かったです!』


 恵理子さんに何度もお礼を言って、通話終了。


 私は気付かないうちに震えていました。


(妻は理解がある大事なパートナー旅費半分夫持ち別の国の人と結婚


 頭の中ではぐるぐると、恵理子さんによってもたらされた情報が回っています。


 しかし、先ほどの夫の様子…。


私の目をまっすぐに見て、「あいかが何を疑っているのかわからない」と言い放った彼。

 

(どうしようどうやって確かめたら良いんだろう!)


 こうして私は、どんどん病んでいきました。


 次の日は、私から連絡を取る気にならずもちろん夫からも連絡はなく


とうとう夫が現地に戻る日になりました。


『空港まで見送りに行こうか?』と連絡しましたが、


『娘連れてくるのは大変でしょ?俺は大丈夫だから娘をよろしく』という返事が。


 一見、良い夫のようですが、また数ヶ月私たちと会えなくなると言うのにこのあっさり具合


(やっぱりモナと?!)


 私はどうしていいかわからず、どんどん身動きが取れなくなっていくのです。


 一応生活費は貰ったし、私の勝手な思い込みで娘から父親を奪うことはできない


(私さえ我慢して慎也を疑わなければ、このまま幸せに暮らせるんじゃ


 こうして私は、見て見ぬふりを続けることになったのでした。


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